
株式会社 和久田幸佑建築設計事務所
建築/デザイン/インテリア/リノベーション










さめうらテントパーク
用途:キャンプ場炊事場
規模:36.6㎡
構造:S造+RC造+W造
所在地:高知県土佐郡土佐町
竣工:2021年12月
(TA+AとJV)
掲載:アーキテクチャーフォト
Architizer
撮影:小川重雄
中央にありながら中心的な役割を担えていなかった炊事棟の建て替えや勾配が急だった構内道路を迂回路により使いやすくした、さめうら森林公園キャンプ場のリニューアル計画である。一昨年竣工したさめうらカヌーテラス(新建築2021年11月号)は風景の一部として周囲の山々と呼応する屋根の形態を持つ。“湖の駅”として段階的に域内を整備する中で、この炊事棟についても各々の整備との関係性を景観との呼応を中心に考える必要があった。既にある森林公園の既存景観の中に手を加える手立てを探していた際に、公園内をある日見渡すと、遊具や鳥居が広大なフィールドの中に点在し各々の近傍に場所性が生み出されていることに気付いた。建築が立ち現れその内部に機能を与えるという事ではなく、一つの事物として振る舞い、そこに炊事ができる場所性が広がる事で、既存景観と渾然一体となる。
互い違いにズレを生じた2枚の屋根は、外部として空間に架かる要素であり、地盤面から僅かに上部を円の中心とした“弧”を描く。ある時は周囲の山々と連続する風景として同調し、別の視点では渇水時に湖から現れる波型の山肌や山々をフレーミングする屋根として、また下から見上げた際は軒裏の部分が大きく見え木々や雲と連関する。眺める場所や季節で異なる印象や性質を持つ場所となった。短工期と限られた予算を満足するため、12mm厚で3×6版の規格材合板をそのままの形で3枚積層し湾曲させる事で屋根の強度を担保した。さらに経年変化を考慮して9mm厚の合板をサンドイッチし、軒裏を6mm厚のラワン合板で仕上げることで総厚60mmの軽やかな屋根とした。一方で山に吹く風の応力によるねじれ変形に対応するため、下部の繊細な鉄骨梁に屋根の中心から少し離れた2点よりロッド材によるテンションを与え支持をしている。機能として要求される流し台や薪置場と並列し配置したL字型の“オブジェクト”の上に弧が架かる構成とし、各々の部材が風景の中で単独の要素として振る舞う事で、柱や梁、屋根といった通常使う建築的な言語から羽ばたき、地続きの大地にのびやかに弧が浮遊する。
キャンプをする際にテントを張る場所はおおよそ5メートル四方の領域とするのが通常だ。そういった広大なフィールドを細分化して捉える特有の考え方をこの炊事棟でも取り扱いたいと考えた。足下から4本垂直に伸びるL字のオブジェクトを方位が敷地全体に拡散する方向に据えた。屋根下を単位空間としながら、同時にフィールド全体の基点となり、そこからキャンプサイト全体に広がる領域を意識することができる。あわせて、道を迂回路として引き直す事で、キャンプサイトの上部にあるフリーテントサイトやシャワー棟、トイレ棟へ車などを気にせず往来出来るようになった。今後整備が予定される展望デッキ等の場所への往来も階段により接続を行った。各々はまだ単独の要素であるが、来年度以降で予定される整備項目を紡ぎ合わせる機能を担う。さめうら森林公園が再び町の方々に利活用され、来町者がアウトドアアクティビティで気軽に利用できる場所として賑わうことを願っている。