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密集する住宅地の光庭 S邸

用途:個人住宅

規模:約371㎡ 地上2階

構造:RC造 一部S造

所在地:東京都

​撮影:小川重雄

 東京都心の旗竿敷地に建つ、夫婦ふたりのための住宅である。光と天然素材が日々の暮らしをやわらかく受け止める空間を目指し、外へ大きく開くことが難しい環境のなかで、内へ向かって静かに広がる構成とした。夫婦は友人を招く時間を大切にしており、その“人を迎える暮らし”が設計の核となっている。広いリビングとキッチン、そして独立性を備えたゲストルームを整え、ふだんの穏やかな日常と、誰かを迎えるひとときが無理なく共存する住まいを目指した。

 

 建物の奥に設けた中庭は、住まいの中心として光と風を導く。LDKや個室はこの中庭を囲むように配置され、壁面を滑る光の移ろいが、内部に静かな表情をもたらす。大きなテーブルを囲んで食事を楽しむ時間や、キッチンに立ちながら交わされる会話など、来客時のささやかな情景も、中庭との緩やかなつながりのなかで豊かに育まれる。

 

 ゲストルームは完全な個室として計画し、生活動線とは重なりすぎないように配置した。中庭には直接開かず、専用のトップライトが柔らかな光を落とすことで、静けさを保ちながらも閉じすぎない空間としている。訪れた人が気兼ねなく滞在できる落ち着いた環境を整えつつ、住まい全体の雰囲気にそっと寄り添う“控えめなもてなしの場”となっている。

 

 外周にはRC壁を立て、外部からの視線を遮りながら、ガラスブロックが点在する柔らかな境界をつくった。光を透過させて隣地へも明るさを返すこの“透過的な縁”は、密集地に生まれやすい閉塞感を和らげ、周辺環境との静かな共存を意図している。浴室に連なる小庭やトップライト、アプローチの半屋外空間など、いくつかの外部的要素を内部に差し込むことで、都市のなかにありながらも伸びやかさを感じられるようにした。

 

 素材には木や石などの天然素材を選び、光を受け止める木の肌理や、陰影に深さを与える石の質感が、住まいに穏やかな奥行きを与える。中庭や小庭から入る光は時間とともに表情を変え、二人の生活にも、訪れる人との時間にも、静かな余韻をもたらしている。

 

 外に控えめに佇みながら、内へ向かって静かに開かれたこの家は、密集地における新しい住まい方を探りつつ、夫婦の日常と人を迎える歓びが自然に息づく場となっている。

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